Lの骨の髄まで

Lな私の、Lだった私の、恋愛や日常についてなどなど…

愛子ちゃん②

秋が来た。

 

夏に中山可穂作品を読み漁っていた私は、完全に「女性と恋愛したい」モードになっていた。

けれども、「女性を好きになる」経験値が低かった私は、すぐに愛子を好きになったわけではなかった。

恋愛に猪突猛進タイプの私は、「友達を好きになっちゃいけない」なんて罪悪感を抱くタイプではないので、ただ単に、この子は友達だと思っていたのだろう。

それまで先輩に憧れのような恋心を抱いたことしかなかった私には、自分と同じ目線に立つ同級生を好きになることはハードルが高かったのかもしれない。

 

それに、愛子といると、なぜだか寂しさを感じることも多かった。

自分よりも他の子とのほうが楽しそうに話しているとか、どうして私を優先してくれないのとか。

今考えると、やきもちとか我儘としか思えないのだけれど。

そう、たぶん、自分だけのものにならないのが悔しかったんだと思う。

そういう微妙な気持ちを抱えたまま日々は過ぎていった。

 

 

高校2年生の秋、修学旅行。

私たちの学年は沖縄に行った。

 

碧い海も水族館も鍾乳洞も戦争の傷跡も、すべてを心に焼き付けた。

 

この旅行中も私たちは他のグループと一緒に回ることは少なく、ほぼ二人で行動した。

たくさんの景色を見た。それはそれでよかったけど。

もっと、彼女の表情を、瞳の奥に残せばよかったなと、今は思う。

 

万座毛でなぜか二人の腕でハート形を作って写真を撮ったこと、一緒に漕いだカヌーは全然前に進まなかったこと、私の嫌いなゴーヤチャンプルーを愛子が隣でおいしそうに食べていたこと、なんだかくだらない事ばかり思い出す。

 

お土産屋さんでターコイズブルーの、波をモチーフにしたグラスを買った。

愛子が選んでくれたものではないし、お揃いでもないんだけど、その色は私たちが好きな色だったから、思い出の品になった。

 

 

3泊するうち、2泊は他のグループの子たちと同じ部屋だったので、3泊目だけ愛子と二人部屋だった。

 

最終日の朝、私が目を覚ますと、ユニットバスから髪を濡らした愛子が出てきて身支度を始めた。

スカートの中にワイシャツをきっちり入れて、立ったまま丁寧に髪の滴をおさえていた。

普段はベストで隠れていて見えない、ウエストのラインは華奢で。

 

どういうわけか抱きしめてしまいたくなった。

 

 

突然抱きしめたら変に思うよな、などと考えているうちに、その部分はベストによってきれいに隠されてしまった。

 

思えばこれが、彼女を「友達」という関係性の外で認識した最初だったかもしれない。

 

それでもやはり、恋愛経験知の低い私は、これを恋だとは認識しなかった。

 

それどころか、沖縄から帰ってからというもの、私は愛子といることがたまらなく息苦しく感じるようになった。

とにかく一緒にいたくない、少しのことが気に障る、話せない、目を見られない。

 

春からずっと二人で過ごしてきた愛子は、すぐに私の異変に気付いた。

それでも、何も聞かずに、ただ変わらずに隣にいた。

そのことすらも、私を逆上させて、事態は悪くなるばかりだった。

 

当時の私の言い分は、やっぱり性格が合わなかったとか、そういうくだらない言い訳でしかなかった。

 

 たぶんすごく好きだった、でも、それと同じくらい嫌いだった。

 

確かめたかったのかもしれない、離れていかないのかどうか。

愛情を計りたかったのかもしれない、ただの「友達」相手に。

 

大人になった今は、人の気持ちがどれほど移ろいやすく、絆は脆いものかわかる。

人の心を試すようなことは、自分のためにもならないということも。

 

幼かった私は、不安のぶつけ方も、大事にする方法も、なにも知らなかった。

 

 

修学旅行から帰って程なくして、文化祭の季節がやってきた。